オランダにきて4ヶ月が経過し、2学期を終えて2週間の冬休みに入りました!
今学期の約2ヶ月間は「協同組合・社会的企業・家族企業」というコースを履修しました。この授業では、協同組合を中心に、利益追求を唯一の目的とせず、経済的な目的と社会的な目的の両方を追求するビジネスについて学びました。生産者協同組合を専門とする教授から、協同組合の基礎、歴史、理論、そして協同組合が直面しがちな一般的な課題について学びました。
多くのゲストレクチャーによる講義や、近くの協同組合への課外見学などもあり、理論と実践をつなげて考えることができる構成でした。また、履修していた生徒は、国籍が異なる15人ほどという小規模クラスだったので議論を中心にした授業スタイルで、先生との対話が印象的でした。
このコースを通して、私は協同組合に対するイメージが大きく変わりました。協同組合は「理念」を大切にするためその理念を実現するための経営には一般のビジネスよりも多くの挑戦がありますが、「人間」を第一にしたビジネスであると強く感じました。
今回からしばらくこの学びや気づきを少しずつ共有していきたいと思います。
市場に任せれば全てうまくいくのか?
市場経済では、「一人ひとりが自分の利益を追求すれば、社会全体も豊かになる」と言われます。アダム・スミスの「神の見えざる手」と言われる考え方ですが、それは本当にいつも成り立つのでしょうか。
例えば、ある町に小さなパン屋さんがあるとします。パン作りが好きで、地域に根ざして、誇りを持って働いている職人さんです。そこに、大手スーパーが進出し、格安のパンを売り始めたとします。消費者にとっては、安いパンが買えて便利ですが、一方で、そのパン屋さんは売上が減り、新しい設備への投資もできなくなり、やがて店を閉じることになるかもしれません。
市場の論理から見れば、これは、「非効率な経営が淘汰される」という合理的で効率的な結果です。でも、そのパン屋さんにとっては、仕事だけでなく、生き方そのものを失う出来事です。また、パン屋さんを中心とした地域の小さなコミュニティという社会的資本も失われてしまいます。ここで失われているのは、地域とのつながりや、技術、誇りといった数字では測れない価値、つまり市場の外部性です。
そこで、このパン屋さんの選択肢として考えられるのが、市場に1人で耐えるのではなく、共通の目的を持つ他の人たちと連帯することで、市場との関係を変えるということです。
例えば、近くのパン屋さん同士で原材料の共同仕入れや設備の共同利用、共同販売などを行う「生産者協同組合」をつくる。あるいは、地域住民が出資・購買で支える、定期購入や予約制などの仕組みをもつ「消費者協同組合」と連携をする。このように、協力することで交渉力を持ち、自分たちの価値観を守りながら市場と関わることができるのが、協同組合の特徴です。
協同組合は「市場がうまく機能しないときのための経済組織」として存在してきました。

私が抱いていたこれまでの協同組合のイメージ
正直、私はこれまで協同組合といえば「政治的」「運動色が強い」「古い」「助け合い(慈善)」といった日本のイメージを持っていました。日本にも農協、生協、労働者協同組合…などさまざまな協同組合が存在していることは知っていましたが、協同組合の世界で利益を追求するということは何か後ろめたい印象がありました。
オランダの協同組合については政治的な要素はなく、協同組合に対する政府からの特別な支援もありません。協同組合は市場で生き残るための合理的な選択の一つのビジネスとして捉えられています。近年、オランダで協同組合の数も増えており、従来の酪農や農作物の生産者協同組合だけでなく、再エネやデジタル、コミュニティ農業など、地域住民を中心とした多様な協同組合が生まれているそうです。

そもそも協同組合と株式会社は何が違うのか?
株式会社(外部の株主がいる組織)の最大の目的は株主の利益(配当)の最大化です。株主の権利は、大きく分けて次の二つから成り立っています。
- Financial rights(経済的権利):配当を受け取る権利
- Control rights(支配権):組織の意思決定に関与する権利

株主は自分の経済的権利を最大化したい、つまり多くの配当をもらいたいという経済的な動機があるため、Control Rights(支配権)を行使して企業の経営の意思決定に参加をします。そしてこの支配権は「持っている株の数」によって決まります。そのため、株式会社では会社を実際には利用しない「外部の人(株主)」が、自分の利益のために意思決定を支配することができる構造になります。
このように、株式会社では出資をしている株主の声が、利用者や働く人よりも大きくなります。そのため、株式会社では企業の理念や利用者の思いを、利益追求や企業の経済的成長より優先することが非常に難しく、「人間」が後回しにされてしまいやすい構図になっています。
一方、協同組合の最大の目的は組合員の利益です。投資による配当金ではなく、協同組合を「利用すること」そのものを通じて利益を得る、という考え方が原則になります。そのため、組織の意思決定は組合員1人につき1票という民主的な方法で行われます。
中心にある経済概念は、
資本は奉仕者(servant)であり、主人(master)ではない (ICA Principle3)
という考え方です。労働と人々が資本(お金)に奉仕するのではなく、資本が人々と労働に奉仕するという経済的概念が中心にあります。この考えに基づいて、協同組合には次の3原則があります (Gert Van Dijk et al., 2019)。
- User-Benefit(利用者便益):協同組合の唯一の目的は、組合員の利益。利用を通じて得る利益
- User-Ownership(利用者所有):利用者自身が出資し、所有する
- User-Control(利用者統治):利用者が民主的に運営を監視・統治する
つまり、協同組合とは「株主のため」ではなく組合員(私たち)の生活やビジネスを良くするために存在する、「人間中心の組織」といえます。また、協同組合には株式市場による株価の上下という企業に対する外部からの評価指標が存在ません。そのため、組合員による監視と積極的な意思決定への関与が組織存続のための要となります。

なぜいま協同組合なのか?
一人では弱い個人が、団結して「所有」することで、巨大な市場に立ち向かえるということが協同組合の強みです。協同組合は、市場を否定する仕組みではなく、むしろ、連帯することで対抗する力をつくり、別の形で市場に立ち向かいます。
勉強する中で特にこの言葉が印象に残りました。
「協同組合は『反資本主義(anti-capitalist)』だと誤解されがちだが、実際には事業体として資金を集め、市場経済の中で競争しているため、「非常に資本主義的」な側面を持つ」(Kopka, 2023)
一般的な株式会社と同じ市場で日々競争する必要があるため、集めた資本を効率的に投資し、経済的な価値を生み出さなければ生き残れません。その意味では、手段は非常に資本主義的といえます。ただし、株式会社と決定的に違うのは常に「人間」が中心であること、そして目的は「組合員の利益」だということです。理念が中心にあるからこそ、資金調達は非常に難しく、意思決定も複雑になり時間もかかりますが、世界中の様々な協同組合が様々な手段でこの課題に立ち向かっていることも学びました。
協同組合における協力とは、やさしさだけでなく、市場がうまく機能しないときのための現実的な経済戦略であり、組合員の経済的・社会的状況を改善するための手段だということを実感しました。
気候変動、地域コミュニティや文化の喪失、孤立、労働者のメンタルヘルスや疲労など、社会にとって問題があっても価格には反映されない要素は、市場経済においては「問題なし」と判断されます。効率性重視で外部性を無視し続けると、これらの問題が深刻になり、市場の失敗になります。
これに仕組みとして立ち向かう一つの方法が協同組合です。協同組合では意思決定に利害関係者(組合員=利用者、所有者)の思いが含まれるため、市場の外部性が内部化される制度です。
便利さや効率が社会にもたらす価値は重要でその恩恵は大いにありますが、行き過ぎるとお金がmaster(主人)となり人間が後回しにされてしまいます。だからこそ今、人を中心にした経済の仕組みとしての協同組合が再び大切になるのではないかと思います。
次回は、「なぜ私はこれまで協同組合は運動や政治的、古いというイメージを持っていたのか?」その理由について考えるため、協同組合の歴史、オランダと日本の生産者協同組合の違いについてご紹介したいと思います。
参照
Gert Van Dijk, Panagiota Sergaki, Baourakis, G., & Springerlink (Online Service. (2019). The Cooperative Enterprise : Practical Evidence for a Theory of Cooperative Entrepreneurship. Springer International Publishing.
Kopka, C. J. (2023). Cooperative business structures: access to capital via equity and credit. In Edward Elgar Publishing eBooks (pp. 100–114). https://doi.org/10.4337/9781802202618.00013


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