第3回までを通して協同組合の原則や歴史、オランダの酪農を支える巨大協同組合、コミュニティ農業としての協同組合、また、小規模農家の生活を立て直す手段としてのFPOなど、様々な協同組合の形に触れてきました。
協同組合の理念は魅力的に見える一方で、その運営は決して簡単ではありません。最終回の今回は、協同組合が直面しやすい代表的な課題を整理し、それらが必ずしも「失敗」を意味しないことについても考えていきます。
課題1:資金調達の難しさ 民主制による制約
なぜ協同組合は資本を集めにくいのか
組織の資金調達は「資本(Equity)」と「負債(Debt)」という二つの種類を通して行われます。
- 資本(Equity):企業の所有権と引き換えに事業に投じられる資本。投資をしたものは、事業の所有者となりリスクに伴う配当を期待する。
- 負債(Debt):利息付きの返済義務を伴う契約に基づく資本(融資)。所有権の移動はおこらない。返済の義務を伴うため、融資は企業の信頼・安定性が重要になる。
第1回目に触れた協同組合の理念が「資本源」と「配当」という点で協同組合の資金調達方法に制約をもたらします。
協同組合の基本的な理念
- 資本は主人ではなく、奉仕者である
- 組合員の利益は「利用」を通して生まれる、配当を通してではない
- 協同組合は組合員の利益が最大の目的
まずは、「資本の源」についてですが、協同組合では組合員の利益を守るために1人1票の民主的な意思決定を原則とします。組織の所有権を組合員が持つために、外部の株主ではなく、組合員による出資によって資本を形成します。これにより、外部株主が意思決定に関与することを防ぎ、組合員が意思決定に参加する仕組みを作ります。しかし、それゆえに協同組合は、株式を自由に売買することで外部資本にアクセスするということができません。
次に、資本の「配当」についてです。組合員は「利用すること」で初めて協同組合の利益を受けることができる前提があるため、投資によって儲けるという投機的志向を取り除こうとします。協同組合に出資をしても、投資された資本の割合に基づいて配当・リターンが増えるということはありません。そのため、協同組合を利用しない人にとって、協同組合に出資することによる経済的なメリットは生じません。
「所有権」を外部の株主ではなく組合員が持つからこそ、普通の株式会社と異なって協同組合では、成長に必要な資本へアクセスすることが難しくなります(Elliott & Boland, 2023)。
資本調達へのアプローチ方法
では、実際にどのように協同組合が資金調達を行うのかについてですが、ロッチデールの原則を引き継ぐ伝統的な考え方と、成長重視の新たなアプローチについて触れたいと思います。
伝統的アプローチ:「メンバーによる出資」「負債」「内部留保」
協同組合の伝統的な資金調達方法は、メンバーによる出資と負債(Debt)です。負債には返済の義務と利息が生じますが、所有権を渡さずに資金を調達できるため、協同組合に適しています。
また、協同組合では過去の成功からの利益を蓄える内部留保が重要になります。ただし、これらは協同組合が営業利益を生み出している経済的に健全な状態の時のみ可能となるため、経営が上手く行かない時の資金調達は非常に難しくなります。
新たなアプローチ:「ハイブリッド組織」外部に組合員以外の株主を持つ
協同組合の規模も大きくなると、合併や工場の設立など大規模な出資が必要になってきます。そこで、近年増えているものがハイブリッド型で、外部の非組合員の投資家による出資を認めることです。例えば、オランダの飼料協同組合ForFarmersは外部投資家からの資本調達を行えるようにガバナンス形態を変更しました。
ForFarmersは協同組合側(組合員)が優先株を持つ仕組みにすることで、外部株主による乗っ取りを防ぐよう工夫しています。一方で、組合員と外部株主という異なる目的を持つ所有者がいることは意思決定を難しくさせることも想定されます。(組合員=高品質で安い飼料が欲しい、外部株主=高く売ってたくさん儲けて欲しい)
このような背景から、協同組合の持続可能性のために、外部投資家資本は本当に有害なのか、協同組合にとって好機になるのではないかという、新たな可能性を探る研究も進められています。
課題2:意思決定の複雑さ 組合員の多様性は強みか弱みか
二つ目の課題は意思決定の複雑さです。1人1票という原則に基づいた民主的な意思決定を行う協同組合は、トップダウンではなく多くの人の関心や意向が意思決定に含まれるため、そのプロセスは普通の企業よりも複雑で時間がかかります。
一般的に、組合員の背景・規模・価値観の違いは意思決定を難しくすると言われています。この組合員の違いには、個人のリスクに対する考え方の違い、年齢なども含まれます(HÖHLER & KÜHL, 2017)。
- 生産者協同組合:組合員の農場の大きさや生産物の違い、地理的分布の違い
- 労働者協同組合:経歴や教育レベルの違い。協同組合に参加する動機の違い
- 消費者協同組合:価値観や経済的余裕
このような違いが大きければ、それぞれの組合員の興味関心が異なるため、合意形成に時間がかかるようになります。また、民主的に決定された戦略に対しても、組合員たちが「自分のためのもの」と感じられなくなると、協同組合に参加する意欲も低下します。このように組合員の多様化は組織の結束を損なうことになります。
組合員の違いをどう管理するか
一方で、組合員の違いが多様な知識をもたらし、より良い意思決定や優れた組織のパフォーマンスにつながる場合もあります。そのため、この多様性を強みにするためのポイントは「組合員の違いをいかに管理するか」という点になります。
そこで「組合員の共通の目的を明確にする」ことが重要になります。全員の利益を追求するのは難しくとも、共通のコアな興味関心を明確にし、何のための協同組合なのかを繰り返し問い続けます。
そのほかにも、貢献度(出資額や利用頻度)に応じた報酬メカニズムを設定するといった「公正なリターンの確保」、組織内の事業ユニットを分化するといった「組織のガバナンス構造を工夫する」という方法もあります。
単に違いをなくし意見を揃えようとするのではなく、共通の目標という心理的な結束を中心に構造を工夫し、方向性を共有し続けることが重要になります。
課題3:フリーライダー問題 組織の中のフリーライダー問題は避けられないのか?
三つ目の代表的な課題は、フリーライダー問題です。協同組合の良いパフォーマンスによって組合員が得る利益は、組合員誰もが受け取ることのできる利益(=公共財)です。一方で、協同組合に対する出資や利用、総会や理事会などに参加し自身の意見を反映させることには、資金、時間も体力も伴うためコストがかかります。
このコストが、得られる利益を上回ると個人が判断した場合、「誰かがやってくれるだろう」と人任せにする心理になります。その結果、意思決定に参加しない、出資や利用に貢献しないといった、フリーライダーの行動をとるようになります。
協同組合ではいかにこのフリーライダー問題を防ぐのかが重要になります。
この点で示唆を与えてくれるのが、ノーベル経済学賞を受賞したエリノア・オストロムによる集合行為(Collective Action Theory)の研究です。従来の「公共財=必ずフリーライダーが発生する」という前提を再検討し、人々は適切な制度設計のもとでは協力的に行動できることを示しました(Ostrom, 2010)。
オストロムは、人間は自身の利益計算だけを行って行動する合理的な存在ではなく、信頼に基づいて協力し、良い行為には応えたいと感じる存在であると述べました。制度設計において重要になるのは、この信頼をいかに醸成するかです。具体的には、当事者自身がルール作りに参加すること、相互に監視と責任を持つ仕組みを作ること、など公共財が持続的に維持される制度設計を、多くの実証事例を用いて証明しました。
この視点に立つと、フリーライダー問題も、人間のモラルによる仕方のない事象ではなく、制度設計の工夫によって向き合い、緩和できる問題だと捉えられます。
結び:「問い続ける組織」としての協同組合
協同組合は決して効率的な仕組みではありません。資本調達は難しく、合意形成にも時間がかかるむしろ「面倒な」仕組みです。その点において、株式会社が強いのは効率化です。しかし、その仕組み上、数字に表れない要素は後回しにされやすい特徴があります。協同組合の「面倒さ」こそが「人間らしさ」を経済活動の中に繋ぎ止めているともいえます。協同組合ならではの課題は「失敗」ではなく、事業を続けるための「問い」の要素だと言えます。
私は今回のコースを通して、協同組合は常に「誰のための経済・組織か」を問い続け、軌道修正をしていく仕組みだと感じました。「こうすれば全て解決する」といった一つの正解の形はなく、それぞれの目的に沿って、組合員の参加を通して形を変えながら次の世代へと事業を繋いでいくという、「持続可能性」を目指す組織だと思いました。協同組合とは「問い続ける仕組み」なのだと思います。
気候変動、社会の格差、コミュニティの衰退など様々な社会的な問題が顕著になる世界で、最適解を一発で出そうとするよりも、皆が生きていけるように「問い続ける姿勢」が認められる組織が、これからの時代は重要になるのではと思います。
今回のコースを通して協同組合について学ぶ中で、個人的には、企業の存続のために単に儲かる仕組みを考えるビジネスを学ぶより、「組合員の利益」を追求しようとする人間中心の協同組合の方が、より複雑である一方、面白いと思いました。
これまで当たり前に「外部株主」がいる前提で株式会社を中心にビジネスを学んできましたが、本来は「誰が組織を所有しているのか」から問い直すことが重要であり、協同組合のビジネスを学ぶことは重要だと感じています。
国や分野、規模によって協同組合の形は様々です。今回学んだ内容は協同組合の基礎とその一部にすぎませんが、これから更に大学院ではこの仕組みについて学び、考えていきたいと思います。
参照
Elliott, M. S., & Boland, M. A. (2023). Handbook of Research on Cooperatives and Mutuals. Edward Elgar Publishing.
HÖHLER, J., & KÜHL, R. (2017). DIMENSIONS OF MEMBER HETEROGENEITY IN COOPERATIVES AND THEIR IMPACT ON ORGANIZATION – A LITERATURE REVIEW. Annals of Public and Cooperative Economics, 89(4), 697–712. https://doi.org/10.1111/apce.12177
Ostrom, E. (2010). Analyzing collective action. Agricultural Economics, 41(1), 155–166. https://doi.org/10.1111/j.1574-0862.2010.00497.x

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