前回まで、協同組合は「人間を中心にした経済組織」であり、協同組合は歴史的に効率が優先される市場のシステムで見過ごされる課題に対して、人々の連帯を通して立ち向かう手段として発展してきたということを見てきました。
今回はコースを通していろいろな種類の協同組合について学ぶ中で、特に興味深いと思った3つの事例をご紹介します。これらの事例を、「協同組合はどのような目的を持ち、どのように市場と向き合っているのか」という視点で見ていくことで、現代における協同組合の可能性を探っていきたいと思います。
「市場から距離を取る」ことで、食の主権を取り戻す:コミュニティ農業Herenboeren(へーレンボーレン)
Herenboeren(へーレンボーレン)は市民が所有する農場という形態の協同組合です。
工業化や規模拡大が進む現在の食システムでは、生産者と消費者が分断され「誰が、どこで、どのように」食べ物を生産しているのかが見えにくくなりました。また、その過程で生じる環境負荷や労働条件など、消費者が食に関する責任を持つための情報を得ることも難しくなっています。このようなグローバルシステムに依存することは、地域での食料自給や生態系の持続性の喪失という問題にもつながっています。
Herenboerenは、住民が資金を出し合い、共同で農場を経営します。市民が農場主となり、自分たちが食べるものを自分たちの土地で、プロの農家を雇って生産することを目指す「直接生産・自給コミュニティ」です。

- 規模感:1つの農場あたり、近隣に住む約200〜270世帯(約500人)の市民
- 仕組み:1世帯あたり約2,000ユーロを出資。1〜3人のプロの管理者を雇用しつつ、住民もボランティアとして参加。
- 特徴: 多品目の野菜、果物、卵、肉を生産。収穫された食物は市場を経由せず、直接組合員の手に渡る
協同組合という形を取ることで、Herenboerenでは凶作・豊作のリスクを組合員全体で引き受ける仕組みが成り立ちます。消費者と生産者の関係を取り戻し、共同体とすることで、食を市場だけに委ねない、持続可能な農業の実現を目指しています。
ただ一方で、Herenboerenについて調べ発表したクラスメイトによると、経営難に直面する農場もあり、農場の合併やプロ経営者の雇用などが検討されているそうです。それでも、2013年に始まってから現在23の農場がオランダ国内に広まっており、大規模農業が主流のオランダの中で、生産者と消費者の関係を重視したコミュニティ農業が注目を集めていることがわかります。
「市場に入り込み」新たな食システムをつくる:オーガニック小売協同組合 Odin
Odinは、1983年に設立されたオランダ最大級のオーガニック食品専門の協同組合です。Herenboerenと同様にこちらも消費者と生産者の分断という課題に対する協同組合ですが、Herenboerenが市場の外に自給圏を作るのに対し、Odinはスーパーマーケット事業を中心に、市場の中で持続可能な新しい食システムを社会全体に根付かせることを目的としています。
有機食品の販売にとどまらず、生産者と消費者の関係を公平で透明なものにすること、そして土壌や生態系を守る農業を支えることを重視しています。現在オランダに30店以上あり、宅配サービス、自社農場での生産も行っています。

Odinの特徴は、消費者だけでなく、従業員(Odinの店舗で働く人々)も組合員ということです。これは、従業員自身がOdinの理念である「持続可能なオーガニック食システムの実現」という目的の担い手として、積極的に日々の業務と組織の戦略の意思決定に参加するためです。2024年時点でオランダに2万人以上の組合員がいるそうです。組合員でなくても買い物はできますが、価格は少し高くなります。

Odinは外部投資家に支配されず、「食の主権」を消費者と生産者の手に取り戻すために、民主的な運営として協同組合という形が採用されている事例です。
小規模農家の連携によって「市場での交渉力を高める」:インド農家プロデューサー組織(FPO)
最後に、オランダからは離れグローバルな視点で、先進国とは異なる文脈で貧困から小規模農家が脱するための手段として機能する、インドの農家プロデューサー組織(FPO)を取り上げたいと思います。FPOは厳密には協同組合ではありませんが、組合員自身が組織の所有者となり主権を持つことで、共同で市場に立ち向かうという点で、協同組合の原則をより強く体現している事例です。
この事例は、インドの農村経営大学院の教授によるゲストレクチャーで学びました。欧州で特に進む協同組合研究ですが、インドやアジア(土地が小規模)ではそのまま適合しないという課題から、地域特有の条件を踏まえた研究を進めておられます。

FPOの経営に関するさまざまな領域を探求した本、今回のゲストレクチャーが第1章を執筆
インドでは人口の約50%の人が農業に従事していますが、全農家の約70%は0.05ヘクタール未満の限界農家です。気候変動などの影響により過去3年間で76%の農家が損失を経験しています。低賃金で毎日2,000人もの人が農業を辞め、自殺に至るケースもあるという深刻な課題に直面しています (C. Shambu Prasad et al., 2023)。
こうした小規模農家は市場に対して交渉力が弱く、提示された価格を受け入れるしかありませんでした。これに対して登場したのが、「農家プロデューサー組織(FPO)」という形態です。 インドでは以前から協同組合が発展していましたが、従来型の協同組合は州政府が意思決定に強い影響力を持っていました。それは農民の生活の向上という、福祉的な側面が重視されていたからです。

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一方、FPOは会社法に基づいて設立され、政府から距離を置くことで、農家自身が市場で競争するための自主性とビジネススキルを獲得することを目指しています。補助金頼りではなく、市場経済の中で生き残る「企業」として利益を上げ、それを組合員に還元することを目的としています。
組合員は生産者(農家)のみのため、自分たちで自由に経営判断ができます。FPOは株式会社ですが、基本は「1人1票」の民主的な原則で運営されます。また外部の専門家を取締役会に招くこともできます(ただし議決権はもたない)。現在、インドでは43,000以上のFPOが存在しているそうです。
事業は農家向けの肥料や種子の共同購入といった購買事業が中心です。一部、農作物の加工・ブランド化といった販売事業を行うFPOもありますが、初期投資が必要でリスクが高いこれらの事業はまだ少ないそうです。購買事業であっても、小規模農家が団結することで、市場や政府に対する交渉力を持つことができます。

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ただし、資金調達の難しさや人材不足など、様々なスタートアップ特有の課題にも直面しており、ビジネスモデルは模索中とのこと。特に、優秀な人材はFPOのような資金力の乏しい組織には就職しないため、経営のプロフェッショナルを雇用することが難しい現状もあります。
そこで重要になるのが、設立を支援するNGOなどの促進組織(Promoting Organization)の存在です。教授によると、この促進組織はプロジェクトベースで専門性を持つコンサルティング会社よりも、草の根で地域に根ざしたNGOの方が長期的には適切であると指摘していました。支援が3年以上の長期的なものになると依存関係が生まれFPOの自立性が損なわれるため、適切な支援期間や支援形態も現在の研究テーマとのことでした。
FPOは財務諸表だけでは測れない効果をもたらしています。特に女性のエンパワーメントやコミュニティの再生、市場の透明化向上(品質評価の導入による不正防止)といった面で価値が見出されています。
「利用者が主権を持つ」 さまざまな形
これらの事例から、協同組合の原則である「利用者が主権を持つ」方法にはいろいろな形があり、様々な社会の課題に対して協同組合が有効な手段となり得ると感じました。共通の目的を持つ人々が団結して社会の課題に立ち向かう選択肢には、市場と距離を置く、市場に入り込む、別の形で交渉力を持ち市場に立ち向かう、などそれぞれの戦略があります。
重要な点は、いかに組合員であるメンバーが共通の目的を明確にした上で共有し、それを組織の意思決定に反映させるか、またそれに伴って生じるリスクと責任を誰がどのように引き受けるのかという点だと思います。
では、人間を大切にする経済活動であれば、なぜそれが普通のビジネスと同じように広まらないのでしょうか。次回、最終回は理想と現実の間で生じる、協同組合ならではの課題について見ていきたいと思います。
参照
C. Shambu Prasad, Ajit Kanitkar, & Dutta, D. (2023). Farming Futures. Taylor & Francis.
De heerlijkste producten, altijd 100% biologisch – Odin. (2026). Odin.nl; Odin. https://www.odin.nl/over-odin/cooperatie/
Krishna. (2023, March 21). “Vital but scarce”: Promoting Agencies Support to FPOs in Uttar Pradesh. SFI. https://www.smallfarmincomes.in/post/vital-but-scarce-promoting-agencies-support-to-fpos-in-uttar-pradesh
Naturlijk samen, bij Herenboeren. (2025, May 6). Herenboeren. https://herenboeren.nl/


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