オランダで学ぶ協同組合:第2回|歴史から紐解く日本との違いと現場のリアル

Blog

前回の記事では協同組合の基本について触れました。今回はそのルーツを振り返りつつ、オランダと日本の生産者協同組合(農協)の成り立ちや特徴の違いに焦点を当ててみたいと思います。

協同組合の原点:ロッチデール先駆者(1844年)

協同組合の歴史を語る上で欠かせないのが、イギリス・マンチェスター近郊で生まれた「ロッチデール先駆者協同組合」です。当時、繊維工場で働く労働者たちは、低賃金の上に、工場経営者が所有する店で、高価で品質の悪い商品を購入させられるという二重の搾取に苦しんでいました。

そこで、28人の労働者が1人1ポンドを出し合い、「Honest food at honest prices(正直な価格で、正直な商品を)」をスローガンに、自分たちの店舗を設立しました。性別関係なく誰にでも開かれた組合員制度、出資額に関わらず1人一票の民主的な運営、利用高に応じた利益の配当による組合員への還元といった原則がありました。これが世界の消費者協同組合の始まりです。

このロッチデールの原則は、様々な場所で市場の失敗に対応するために用いられるようになり、現在の世界中の協同組合の共通ルールとなっています。これが「弱者が連帯を通して自分たちの問題を解決する(ボトムアップ)」という協同組合の原点です。

youngcooperatives. (2012, April 19). The story of the Rochdale pioneers
[Video].YouTube. https://www.youtube.com/watch?v=DNVzOsZt6ew

オランダ酪農協同組合の歴史

この「連帯によって市場の失敗に対抗する」という考え方は、オランダの生産者協同組合の成立にも影響しており、オランダの酪農生産者協同組合も非常にボトムアップ的な背景を持っています。

市場の失敗への対応

19世紀、オランダの酪農家は「買い手の寡占(少数の民間の乳業メーカーしか存在せず買い叩かれる)」「輸送コストと品質劣化」という課題に直面していました。1878年、クリーム分離機の発明を機に、大規模な加工工場が誕生すると、農家は自ら工場を所有・運営することを選択するようになりました。農家が共同で出資し、販売することで、市場に対して個々では実現できなかった価格交渉力を持てるようになり、安定した牛乳の買い手を確保することが可能になりました。農家は酪農業に専念することができるようになり、わずか20年の間で酪農協同組合は750近くまで達しました(Bijman, 2018)。

19世紀オランダ西部の景観:インフラが悪いため、輸送で生鮮品は劣化しやすい状況だった

協同組合の巨大化と制度環境の役割

20世紀に入り蒸気機動力という技術革新により、さらに大規模な工場が必要になると、小規模な村の協同組合は効率性と競争力を維持するために合併し始めました。インフラが改善したこともあり、その結果、酪農協同組合は5社にまで減少したものの、市場占有率は80%以上を維持しました(Bijman, 2018)。

現在もこれらの協同組合は大手スーパーマーケットなど小売業者への交渉力を農家が持つために機能しており、ブランド構築、商品開発やマーケティングを行う世界的な企業として事業展開をしています。

また、オランダの協同組合の発展は、農家の自発性だけでなく、その時々の制度的環境も影響しました。特に、第二次世界大戦後の戦争による飢餓の経験から、オランダ政府は食料安全保障と農民の生活水準向上を最優先課題としました。

政府の3つの優先政策

  • 十分な食料の確保
  • 農作物の輸出拡大
  • 農民の生活水準の保証(貧困防止)

政府は協同組合だけを支援したのではなく、あくまで「農業全体」を支援しました。

ただし、結果的にこの政策は協同組合に有利に働きました。規模の大きな工場ほど多くの支援が得られる制度であったため、効率化のために合併を進めて巨大化していた協同組合がこの恩恵を最大限受けることができました。また、厳しい品質管理規制に対応できる資金力を持った協同組合は設備投資ができた一方、小規模な私企業は対応できずに廃業していきました。

日本とオランダの違い:なぜこれほど形が異なるのか?

同じ「協同組合」であっても、日本とオランダでその特徴は大きく異なります。ここでは二つの観点からその成り立ちを比較したいと思います。

1. ボトムアップかトップダウンか

オランダの生産者協同組合は農家を経営している事業主としての農家たちが生き残り戦略として必要に迫られて、自分たちで協同組合を設立した自発的な組織の側面が強いです。一方で、日本の農協の成り立ちは政府主導によるトップダウン型のアプローチでした。

1900年、日本政府は農家を守り、生産力を上げるために「産業組合法」を制定し、これが農協のルーツとなりました。当初は農業支援政策の一環でしたが、戦時下ではすべての農業団体が「農業会」という組織に統合され、食糧増産と徴集をスムーズに行うための「行政の下請け機関」のような存在になりました(Kurimoto, 2004)。戦後に「農業会」は解体され、現在の農協の形がスタートしましたが、戦時中の「行政の下請」としての影響が残りました(山下, 2005)。

2. 組織の特徴:「総合農協」vs「専門農協」

日本の農協の特徴は、信用、販売、購買、共済(保険)、営農指導、冠婚葬祭まで、生活全般に関わるサービスを一つの組織で提供する「総合農協」です。

戦後、GHQは「お金を扱う部門(信用)事業」と「農作物を売る部門(販売)」を分けようとしましたが、当時の農家は規模が小さく貧しかったため、地域社会の生活と農業を丸ごと支えるためには全部まとめてやる方が便利という日本側の主張のもと、「総合農協」という形をとることになりました(Kurimoto, 2004)。

一方、オランダは特定の品目や機能に特化した「専門農協」として発展してきました。セクターごとに巨大な協同組合が存在し、海外にも事業展開をするグローバル企業となっています。農家も特定品目のプロ経営者であり、協同組合も生活支援ではなく、ビジネスを勝ち抜くための戦略的手段として機能しています。

オランダ酪農協同組合現場の声:「理念とビジネス」の実現の難しさ

授業の一環でFrieslandCampinaというオランダの大手酪農協同組合に見学に行きました。そこで協同組合の理事会のメンバーである、酪農家の20代後半の女性からお話を伺いました。彼女は実家の牧場を継ぎ、子育てをしながらも、酪農家が減少することに危機感を感じ、自分がこの協同組合の理事会を務めることで、この土地と事業を次世代に繋いでいきたいと語っていました。(彼女は私たちと同じコースの卒業生で、この授業を数年前に受講していたそうです!)

彼女の言葉の中で、私は「1人1票の綺麗事だけでは勝てない」という現実的な視点が印象に残っています。グローバルな市場で生き残るためには、貢献度の異なる酪農家同士が皆平等では、大規模農家をつなぎ止めることができない、彼らを失えば市場での交渉力低下につながり競争力を維持できなくなるため貢献度に応じた仕組みも必要だということでした。(教授は「それもわかるが…」という様子で、後で2人で色々とディスカッションしていた様子も印象的でした)ビジネスと理念の両方を追求することの難しさを、直接話を聞く中で実感しました。

でも彼女が言うことの原点には、協同組合の利益を農家に還元するため、そして事業と土地を次の世代に引き継いでいくため、という視点がありました。外部の株主利益や自身の利益最大化のためではなく、オランダの酪農業全体と次世代を考えた結果だと話を聞いていて感じました。

また、彼女自身「自分がこのグローバル大企業のオーナーであることに誇りを持っている」と語っていて、協同組合の運営に参加することで自分も成長できていると、楽しんでいる様子が印象に残っています。

FrieslandCampinaのイノベーションセンターを見学させてもらい新製品開発の様子を見ましたが、職員の方々の「メンバーである酪農家が喜ぶのは儲かる商品をつくること、だから利益率の良い商品の開発は非常に重要」という言葉も非常に合理的だと感じました。

また、FrieslandCampinaは生物多様性、温暖化対策、動物福祉など組合員である農家によるサステナビリティへの取り組みをボーナスに直結させるなど、サステナビリティへの取り組みが先進的で、これは農家兼協同組合の所有者という、組合員であるサプライヤーと協同組合(企業)の距離が近いからこそできる取り組みだとも学びました。

画像:https://www.arcadis.com/nl-nl/projects/europe/
netherlands/innovation-centre-van-frieslandcampina-gezond-en-duurzaam

まとめ:正しい答えはない、柔軟に適切な形を模索していく

今回の学びを通して感じたことは、協同組合に一つの正しい形があるというわけではないということです。

ロッチデールの原則を大切にしながらも、オランダのように大規模農家の生き残り戦略のためにビジネスの面を強めていく、日本のように小規模農家が生き残れる仕組みのセーフティーネットとして地域のインフラとして機能する。FrieslandCampinaの理事会の葛藤のように、話し合いを通して組合員が納得する組織としてのあり方をみつける、失敗した時には柔軟に軌道修正していく、その積み重ねが重要だと感じました。

最も大切なのは協同組合の利用者である組合員の利益を守るための、組合員による積極的な参加だと思います。上からの指示を待つ姿勢では健全な組織を維持することはできない。そのため、ロッチデールのように自分たちの利益を守るための自発的な活動が協同組合の維持存続には重要だと感じました。

次回は、オランダを中心とした、現在広がる様々な「ビジネスとしての協同組合」をご紹介したいと思います!

参照

Bijman, J. (2018). Exploring the Sustainability of the Cooperative Model in Dairy: The Case of the Netherlands. Sustainability10(7), 2498. https://doi.org/10.3390/su10072498

Kurimoto, A. (2004). Agricultural Cooperatives in Japan: an institutional approach. Journal Of Rural Cooperation, 32(2), 111–128. https://doi.org/10.22004/ag.econ.59713

山下一仁. (2005, August 15). RIETI – 下からの発意に乏しかった日本の農協. Www.rieti.go.jp. https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/yamashita/30.html

コメント

タイトルとURLをコピーしました